核医学技術室 RI製造担当(北大駐在)菊池康子 「やったことがないから、やってみたい」私の長所が活かせる職場

前立腺がんの画期的な診断薬を合成する「68Ga‐PSMA‐11合成装置」の日本への導入を目指している、AMS。そのための非臨床試験を北大との共同プロジェクトとして進めているのが、菊池康子です。北海道大学で有機化学を専攻後、警察官になるという異色の経歴の持ち主。そんな菊池がAMSで働いている理由ややりがいなどのキャリアストーリーをご紹介します。
STORY 1

薬剤師を志望し、
北海道大学に進学

高校時代に、将来は薬剤師になりたいと思いました。シンプルに、薬が病気を治すことに興味を持ったからです。そこで、進学先は地元(とはいっても車で2時間)の北海道大学に入学しました。入学後に希望と成績で学部を振り分けられるシステムでしたが、当時薬学部は上位だったんです。自分の成績ではかなわず、次善の行き先として理学部化学第二学科(現・化学科)を選びました。そこでは、2,3年生では学生実験などを行い、4年生の春に遺伝や無機、有機などの8つの研究室の中から一つを専攻することになっていました。私は有機化学の研究室を選ぶのですが、実は3年生の時に、有機化学のテストがボロボロで・・・。そこで、追試仲間で集まって連日泊まり込みの勉強会をしたんです。それで有機化学がすごく面白くなって好きになりました。分からないことがたくさんあっても、勉強していくと分かるようになる。そんな成功体験が心地よかったんですね。
理学部の学生の9割は大学院に進学していましたが、私は入学当初から早く独立するために就職したいと考えていました。とは言え4年次からの研究室での活動がとても面白く、進学を迷いもしましたが、やはり初志貫徹で就職を決意します。
ところが、時あたかも就職氷河期。大学で学んだことを活かしたい思いもありましたが、就職情報誌の資料請求ハガキを出しても資料さえ送られてこない、という状況に。そこでまた悩んだのですが、自分はモノを相手にするより人を相手にするほうが性に合っていると思い直し、当時のドラマ「踊る大捜査線」に影響されたのもあり、道警の警察官になろうと思ったのです。地元の北海道で仕事ができるというのも魅力でした。
警察では、交番勤務のほか刑事を3年ほどやりました。やはり、人相手の仕事は自分に合っていると感じました。また、当時道警の女性警察官にとっては当直勤務が始まるなど新時代で、一生懸命やればやるほど仕事が広がりやりがいがありました。
STORY 2

就職氷河期の中、
警察官!になる

余談ですが、刑事時代に札幌時計台の前で撮った写真が道警のカレンダーにも使われましたよ(笑)。
その間、26歳で結婚し、28歳で第一子を出産後、仕事と子育ての両立を断念し、退職を決めました。
10年後、3人目の子どもが幼稚園に通うようになって、仕事を再開。最初は短時間で、子供の成長に合わせて時間を徐々に増やし、短いスパンでいろいろな仕事をしました。
STORY 3

43歳で母校・北大の
研究室で働くことに

そして、43歳の時に北海道大学の有機合成を手掛ける研究室で、派遣として3か月ほど働く機会を得ました。その研究室で、20年ぶりに本格的に有機合成を行いました。学生時代にやったことを思い出し、復習できた貴重な3か月でした。
その後、北大のアイソトープ総合センターに派遣の話がありました。ちょうど復習したばかりの有機合成の経験が求められていたことから、是非挑戦したいと。勤務体系は週5日のフルタイムでしたが、末子が小学校の高学年になっていたので応募し、派遣が決まりました。
アイソトープ総合センターでは、薬剤合成のGMP(Good Manufacturing Practice:医薬品の製造管理及び品質管理の基準)に関わる仕事に携わりました。さらに、2020年7月からは、合成の担当として、AMSと北大の共同プロジェクトに参加することになりました。このプロジェクトは、最先端の前立腺がん診断を日本に導入する、AMSの主力事業そのもの。患者の前立腺特異的膜抗原(PSMA)を標的とした陽電子放射断層撮影(PET)による画像診断(PSMA-PET)で、この診断法は病巣を正確に見つけ出すことができ、ピンポイントで摘出する手術や放射線療法が可能になり、患者の負担を大幅に軽減できるメリットがあります。海外では先行して行われ始めていますが、日本への導入は遅れています。
このプロジェクトは、画像診断に用いる放射性医薬品の68Ga‐PSMA‐11を合成する外国製の装置を日本に導入するための開発です。私はアイソトープセンターの派遣職員という身分でしたが、この仕事に本格的に関わろうと2021年4月にAMSに転籍することにしました。
STORY 4

北大でAMSと
出合う

STORY 5

専門家に囲まれ、一から
学びながら経験を積む

この仕事では、高度な専門知識が求められます。北大理学部で有機化学を学んだ基礎や、アイソトープセンターでの薬剤合成に関する業務経験はあるかもしれませんが、開発に必要な知識は“0”からのスタートと感じました。不安はあったものの、開発そのものはとても面白いものという印象でしたので、何とかなるという自信も少しありました。
私は、北大で68Ga-PSMA-11の合成や品質試験のほか、動物を使った実験もしています。1年前の私は実験動物を触ったことはもちろん、見たことさえありませんでした。でも、アイソトープ総合センターの先生方に一からご指導いただき、疑問を解消し、仕事を前に進めています。
また開発に関してはAMSにも元北大特任教授やPh.Dを保有するプロフェッショナルなど、豊富な知識や実務経験を持つ専門家が揃っています。非常に優秀な方々で、私が何がわからないのかを瞬時に察知し、「ここを見ればわかる」「これを読めばわかる」と先回りするように教えてくれるのです。この恵まれすぎた環境があるからこそ、今48歳の私でも成長し、この仕事ができているんだと思います。
今は目の前のことで目一杯ながらも、以前は全くわからなかったことも今はわかるようになって、毎日少しずつ知識を増やせることに満足しています。そもそも薬学を勉強したかったという探究心が健在で、そんな気持ちが原動力になっていると実感しています。
そう考えると、私は「やったことがないからできません」とは思わず、「やったことがないからやってみたい」と思える性格であることが一番の強みなのかも知れませんね。
現在、北大との共同プロジェクトにおいて、AMS側のスタッフとして北大に常駐しているのは私だけです。ですから、北大とAMSの架け橋となって、このプロジェクトを成功に導きたいと思っています。
STORY 6

“ベンチャー”らしい、
夢のある会社

このプロジェクトでは、まもなく場所を北大病院に移しての臨床試験が待っています。それらをスムーズに終え、できるだけ早く日本に製品を導入したい。そして、一人でも多くの前立腺がんの患者さんにより良い医療を提供できるようにしたいと思っているところです。もちろん、このプロジェクトだけでなく、AMSではいろいろなことにチャレンジするはず。AMSのCEOは、いろんなビジョンを話してくれます。今まで、こんなにいろんなことを考えている人に会ったことがありません。まさしく“ベンチャー”らしい、夢のある会社です。「今までやったことがないことはやってみたい」と思う私だからこそ、一緒に楽しみながら成長を続けていくつもりです。

菊池康子(きくち・やすこ)

1974年、北海道静内郡静内町(現新ひだか町静内)生まれ。薬剤師を志望し北海道大学に入学後、次善の進路として理学部の有機化学を専攻する。卒業後は「地元×人と接する仕事」という志向から警察官に。28歳で出産退職後、10年間の子育て専念期間と派遣の事務職を経て2018年に北海道大学アイソトープ総合センターに入所。AMSとの共同プロジェクトに参加後、2021年4月、AMSに転籍。